= Cruise Diary =
■2008/10/27 - インタビュー04「都市・建築における無名性の価値、有名性の価値」/南後由和 後半
南後由和氏インタビュー後半

Q:社会学という方面から建築・都市を語ることの意義とは何でしょうか?

僕にとって建築家とか、作品としての建築というのに、少年時代はほぼ無縁だったわけです。たとえば一生のうちで住宅を建てる機会が1回か2回あったとしても、そこでの選択はハウスメーカーだったり建て売りだったりマンションだったりするので、一般の人と建築家というのは交わることがないかもしれない。
それに社会学における建築に関する研究も、住宅と家族の関係についてのものなどは別として、あまり蓄積がありません。また、よく言われる話ですが、上野千鶴子さんと山本理顕さんの対談に典型的なように、先のルフェーヴルと同様、基本的に建築家は空間決定論者や空間帝国主義者として捉えられることが多いわけです。乱暴に言えば、建築家が自分の思想や理念を表現として押し出すことで、基本的に使いにくく、とんでもない建物が出来るという類いの枠に収まるものです。建築家の批判のされ方も定式化しています。建築家と社会学者はすれ違ったまま、むしろその齟齬が面白いとされてきたのかもしれません。
もちろん、距離を保つことで建築界の駄目なところ、不毛さみたいなものに気付くんですが、社会学者も、建築界のハビトゥスとか建築史の流れを深く理解し、肌で感じないと、生産的な議論の発展が望めませんよね。
その点では、同世代の建築家との交流がとても刺激になっています。研究としての参与観察をするつもりはないですけど、メタなレベルと現実的なレベルを行ったり来たりすることが必要だと思っています。しかも、研究に限らず、建築とか都市というのは、他者や公共性と関係を持たざるをえないし、もっとマスに開かれてしかるべきものですよね。とくに面白いアイデアがある若手建築家は多くいるのに、狭い意味での建築界でどれだけ評価されても実際に活躍する場は限られているし、制度的にも不安定な立場に置かれていて、とてももったいなく感じます。そういう意味では、ナイーヴな言い方かもしれませんが、建築・建築家と社会の距離をもっと縮めたいというのがあるんですよ。まだまだ建築のことも勉強不足ですが、今後は、建築界の内向きに語ることよりも、社会とのメディエーター的役割を積極的に果たせればと思っています。

Q:同世代の建築家との交流という話が出ましたが、最近では建築家の柄沢祐輔さんや藤村龍至さんとともに「批判的工学主義」に関する議論を展開されていますが、どういう経緯で「批判的工学主義」へコミットされていったのでしょうか?

ルフェーヴル関係で言うと、アトリエ・ワンの塚本さんが藤村さんの先生ということもあって、僕の書いた文章を読んで頂いていたようです。藤村さんとは先の『10+1』の現代思潮研究会で一度お会いしたことがあったのですが、ちょうどプリズミック・ギャラリーで藤村さんが展覧会をする予定があり、フリーペーパー『Round About Journal』の動きも始まりつつあった頃に、建築家の今村創平さんの仲介もあって、ハウス&アトリエ・ワンで塚本さんと藤村さんにお会いする機会がありました。その時に、藤村さんから対談かインタビューの話を頂きました。そして、たまたま僕の大学院の方でもUMAT(Ubiquitous Media: Asian Transformations)という国際会議を開催する動きがあったので、どうせなら一緒に何か発表しましょうということになったんです。そこに柄沢さんも参加するという話になり、『10+1』47号での鼎談を経て、UMATで初めて「批判的工学主義」という概念を打ち出しました。その後、『10+1』49号、Live Round About Journal、『建築雑誌』2008年6月号など、イヴェントや依頼がある度に集まっては色々議論してきました。

Q:2008年に入り、「批判的工学主義」に関する議論が活発に行われるようになったことについてどう思われますか?

たとえば、タワーマンションやショッピングモールなど、圧倒的な速度や量をもってして現代の都市空間を規定しているジェネリックな風景に対して、括弧付きの建築家は語るべき言葉も方法論も持ち合わせてこなかったと思います。これは都市空間の無名性に関する自分の問題関心とも接続するものです。
現状の都市・建築をめぐる社会学的診断というか、いわば現代の建築家が置かれている社会的位置を踏まえた姿勢とも言えるのではないでしょうか。だから特定の建築家としての藤村さんや柄沢さんだけが取り組むべき問題ではなく、建築界全体が無視することができない問題のひとつとして、アトリエ系事務所、組織・ゼネコン系事務所、研究者の垣根を越えて、多くの人に開かれたものにできればと思っています。
設計組織のあり方自体を再構成するような議論のプラットフォームをつくりたいというモチベーションもありますが、そろそろ批判的工学主義に関する建築のヴィジュアル・イメージや建築の型も色々見てみたいところですね。
もう一つは、現代の建築家がシチュアシオニスト的問題意識と接続するならば、たとえば都市の隙間や点に注目しがちであった「空間から状況へ」展(ギャラリー間・2000年)とは違って、都市と建築の関係を表層レベルではなく、システム、情報、経済、制度などの深層レベルから捉え直していかなければならないと考えています。シチュアシオニストも資本による都市空間の編成や郊外化の進行にはとても敏感でした。現代においてシチュアシオニスト的実践が建築として可能ならばどういうことがありうるのかを考える一つの物差しとしても「批判的工学主義」を位置づけています。


Q:今回のテーマ「マックスバリュー」に関して、社会学的視点からどのようなアプローチがあると思われますか?

社会学というのは、所与とされているものの自明性を疑うところから始めるわけです。たとえば自分の価値観に内在する他者性というものを浮かび上がらせるのが社会学のアプローチのひとつなので、そういう意味では当たり前とされたり、マスメディアによって操作されがちな価値を、多角的に分析することによって顕在化、意識化させるということがあると思います。
建築に関して言えば、建築に興味がない人にとって、空間は無意識のものとしてあるというか、あえて距離を取ってそれらを眺めるまなざし自体、持ちにくいものですよね。しかも公共建築のワークショップや説明会でも、一般の住民には、空間に関する思考の道具の数が絶対的に少ない。そういう意味では、大人になってからではなく、小学校・中学校ぐらいから空間の「リテラシー」――空間の批判的な読み解き能力と創造的な発信・表現能力――を育むような教育プログラムやソフトを、建築家と協働して開発して、社会や総合学習の時間に導入することができれば面白いんじゃないでしょうか。その方が、景観や環境をめぐる取り組みの底上げにもなると思います。たとえば、辰野金吾が東京駅を設計したという端的な事実を歴史の科目で暗記することはあまり重要じゃないわけです(笑)。そうやって空間のリテラシーを豊かにすることは、街を歩いている時とか公共建築を使っている時に、建築や都市が持っている潜在的な有用性を導きだすことにもつながっていくと思います。


Q:今回のレクチャーについてお聞かせください。

1回目と2回目は、シチュアシオニストの実践とルフェーヴルの都市・空間論について、できるだけ詳しく話したいと思います。ただし、それらを60・70年代の今まで日本ではあまり紹介されてこなかった都市・建築論として了解するだけで終わらせるのではなくて、それらが抱えていた問題系を現在の僕たちが生きるならば、どういう方向性があり得るのかということを皆さんと一緒に考えることができればと思っています。3回目は、シチュアシオニストとも間接的につながるグラフィティに関するフィールドワークを紹介し、具体性を与えたいと思っています。グラフィティは匿名性に関する話なんですが、4回目は、それと表裏一体にある建築家の有名性が社会において生産され、また建築界の中で生産された有名性が、マスメディア、クライアント、コンペなどを通じて流通し消費されていくというメカニズムを考察していきます。『新建築』『建築文化』などにおける建築専門誌における建築・建築家の表象のされ方と一般紙誌での表象のされ方はどう違うのか、たとえば50・60・70年代の丹下さんとか黒川さんはどうまなざされていたのかを、週刊誌、女性誌、ファッション誌などのヴィジュアルを豊富に交えながら話していきたいと思います。それによって建築家のステータスとか社会的なポジションといったものが、歴史的にどう変わっていったのかを示せると思います。5回目は、受講者の皆さんに、さまざまなメディアを横断するかたちで、有名性と無名性の価値に関してプレゼンテーションしてもらい、ディスカッションをしたいと思っています。内容は、建築・都市に関してでも、そうでない身近な例でも何でもいいです。全体を通して、気軽に質問や意見を出してもらうことによって、一方通行のレクチャーにはしたくないと思っています。



南後由和(なんごよしかず)
1979年大阪府生まれ。社会学、都市・建築論。東京大学大学院学際情報学府博士課程単位取得退学。東京大学大学院情報学環助教。
共著に『都市空間の地理学』、『路上のエスノグラフィ――ちんどん屋からグラフィティまで』、『M×M 2007――建築家が語る「都市への処方」』など。

講義日程
11/23(日)16:00〜、11/24(月)祝日13:30〜、12/14(土)16:00〜、1/18(日)16:00〜、3/1(日)16:00〜

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